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チューリッヒの持続可能な集合住宅事情

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2019年10月に視察した、スイス・チューリッヒ市郊外にある新しい集合住宅の形についてのレポートです。

名称は「MEHR ALS WOHNEN(メーア アルス ヴォーネン)」。英語訳で「MORE THAN LIVING」(以下、モアザンリビング)です。

日本語だと「暮らし以上に」といった言葉の意味合いでしょうか。

2015年よりチューリヒ市郊外にある住宅建設組合で、約1,400人・60カ国の国籍の人々が一緒に暮らしています。

スイスの住宅事情

スイスの面積は九州くらい、人口が約850万人(大阪府と同じくらい)で、中でもチューリッヒ市は人口40万人の最大都市になります。

スイスは物価が高くて有名ですが、ヨーロッパの中でもとても安全で、世界でも暮らしやすい国の1つです。

新築戸建はハイエンドな市場になり、40坪程度の戸建でも1億円程度の建設費が必要なので、いわゆる富裕層しか建てることはできません。

日本の人口が都市部に集中しているのと同様に、主要都市の中心部は移住者の増加で賃料は上昇する一方です。

さらに世界的な低金利時代で不動産は安全で利回りの良い投資手段となっており、都心部の賃料の上昇に輪を掛けています。

スイスはもともと、宅地として使える平地が少ないです。

チューリッヒ市中心部も若者や高齢者が手頃に住める住宅を探すのは難しく、住宅の需要が供給を上回っています。

この状況はまだまだ続くとされますが、その中で新しい形の集合住宅が生まれており、日本の集合住宅でも何か取り入れられるヒントはありそうです。

協同組合による集合住宅

日本にも入居希望者で協同組合を作り、その組合が建設業者に発注するという、コーポラティブハウスという形態があります。

入居希望者には共通の暮らしのテーマはあるのですが、どちらかというと「集合住宅でも自由設計の間取りが手に入る」というイメージが先行しています。

モアザンリビングでは協同組合が主体となり、暮らし方や考え方のテーマで「クラスター」と呼ばれる集団ごとに、地域(敷地)内の各建物を運営しています。

モアザンリビング内には、年齢や国籍も様々な1,400人以上の入居者がおり、公園や広場などの共有スペースはもちろん、保育園や小学校などの教育施設もあります。

敷地内でも雇用が増える様、レストランやゲストハウスの運営も行っています。

RCや木造の建物が混在し、様々なデザインの集合住宅がありますが、暮らし方や建物の前に協同組合のガイドラインがあります。

モアザンリビング・指針

モアザンリビングには6つの指針が掲げられていますが、中でも特徴的な2つの指針を紹介します。

2000W(ワット)社会

1人あたりの年間1次エネルギー(石油、天然ガス、石炭など、自然由来のエネルギー)消費量を、2000Wに抑える。

スイスでも日本でも、今の1次エネルギー消費量の約3分の1になります。

1人当りのCO2排出量を減らし地球温暖化を抑制する目的で、スイスのエネルギー政策は「2000W社会」を目標として掲げています。

モアザンリビングでも地域の排熱を利用して暖房に活用したり、機械換気設備についてもローテクのものを採用しています。

ミネルギー基準(*スイスの省エネ基準)に準じた機械よりも、ローテクの方がエネルギー効率が良いそうです。

また、なるべく地域のものを用いて建物を建設したり、有害物質を発生するものは使わない環境づくりを行っています。

近所で住民の暮らしのニーズをまかなえて、非効率なエネルギーを使わないことも大事です。

モアザンリビングの住民は、自分たちのエネルギー消費量を組合のホームページや共有スペースで確認できます。

共有スペースの活用

各建物の1階部分には、たくさんの共有空間が設けられています。

5人集まれば協同組合に提案ができるそうで、映画館や工作場、子どもの遊び場など40の空間が作られています。

そして、その40のグループがこの地域の暮らしを支えていて、食べ物やDIYをする工具などもシェアできる仕組みがあります。

建物の一角にあるレストランやベーカリーは、雇用機会にも繋がっています。

スイスに限ったことではないですが、職住近接というのも指針の1つで、近所で働くことで地域に貢献するという考え方も実践できます。

協同組合で働く人は自治体やNPOと連携しながら細かい住民サービスを提供し、貧富や家庭環境の差で緊急事態に陥らない様に、周囲との助け合いができる場所を作り出しています。

掲げている指針はあくまでも啓蒙であり、「決めるのは自分」という住民の説明を受けました。

エコな暮らし方

◇トイレの水は雨水利用

◇太陽光発電で敷地内の約25%の消費電力をまかなう

◇全館暖房

◇ミネルギー基準で建てられているため、光熱費の負担が少ない

車の所有

現在は圧倒的に若い世帯が多く、交通が便利なため車を持たない人や、子どもを遊ばせたりできる安全性を求めて、モアザンリビングに引っ越してきます。

仕事や身体的に必要な人の車の利用は認められていますが、原則的に車を持つことは禁じられています。

家賃にカーシェアリング代が含まれており、電動自転車も安くレンタルできます。

家に○○○がない!

スイスでは普通のことですが、各建物にランドリールームがあり、洗濯機を共有しています。

余裕を持った台数が設置されていて、全てが同時に稼働していることはほとんどなく、トラブルになることもないそうです。

そして、各家庭には冷凍庫もありません。

冷凍庫の仕組みは、専用の箱を借りて、その箱に入れたものをマイナス18℃の部屋で保管します。

様々な協同組合

野菜協同組合…加入して定期的に収穫物を購入するだけでなく、畑仕事の手伝いをすると報酬として野菜がもらえる。

牛乳協同組合…加入して乳製品の購入の他、手伝いをすることで市販品ではないチーズを入手できたりする。

モアザンリビングでは敷地内にスイスでは珍しい自動販売機が設置されていて、そこでも野菜のピクルスやチーズなどの乳製品を入手することができます。

間取りと家賃

子どもが生まれたら敷地内の別の建物に移り、逆に子どもがいなくなったら小さな面積の住居に移ってもらうなど、非効率な活用にならないよう間取りの制限も設けています。

お客さんが泊まるスペースのない人のために、敷地内にはゲストハウスも20部屋用意されています。

家賃はクラスターごとに変わり、入居者の収入に応じる、全ての部屋を個人所有で運営する、社会主義的に一斉に集金して運営する、などまちまちです。

入居時には1年分程度の共同出資金(解約時にはほぼ戻ってくる)として、現金の準備が必要です。

ただし、全体の5分の1の建物が公的助成金を受けることができ、家賃はチューリッヒ市郊外でも割安な方だそうです。

だいぶ濃い近所付き合いになりそうな集合住宅ですが、実際に住民の約5分の1がメッセージアプリ「ワッツアップ」で情報共有をしています。

自宅で不要になったものの情報やゴミ出しのマナー違反などもアプリで共有され、適度な距離感で暮らす必要もありそうです。

自分たちが不要になったものを、並べておく下の写真の様なスペースもあります。

スイスやドイツだからといって、みんながエコロジーへの意識が高いわけではなく、距離感にもあまり馴染めず、引っ越して行く世帯もあるそうです。

ただ、現実的に成り立っていて、住民の満足度は高く、チューリッヒ市が様々な調査や測定を行っています。

ミネルギー基準で建てられた集合住宅で、バルコニーや他の敷地でも多くの緑化がなされており、他の公共住宅に活かせる内容が多いのでしょう。

協同組合の中で考え方に賛同できるクラスターを選択でき、暮らし方を共有することで、各世帯の負担を少なくする。

これからの集合住宅のトレンドの1つになるのかどうか、この先の展開もまた見てみたいモアザンリングの視察でした。

日本はヨーロッパの中でもドイツとよく似ていると言われますが、意外と国民性はスイスとも共通項があったりします。

スイスのことを多角的に知るなら、こちらの本が面白かったのでおすすめです。

30万部を突破した『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』と『住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち』に続く、待望のシリーズ第3弾! お隣の国同士なのに、ドイツとスイスは大違い。そこで在独35年の著者が、世界一無愛想な人々が住むドイツからスイスに行って観察したら、日本との共通点の多さにビックリ。
ABOUT ME
なかまき@リプライエ
1999年よりドイツ・スイスのエコロジー建材を扱う専門商社で、営業とマーケティングに従事後、フリーランスへ。実際に見学したエコロジー建築や自然素材の家づくりとその周辺情報を発信しています。
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