日本でも近年の気候変動や自然災害によってもたらされる地球温暖化の余波は、環境だけでなく健康に様々な影響や負担が増えてきています。
カーボンニュートラルという言葉を聞いたことはありませんか?
地球温暖化の大きな要因の1つである「大気中のCO2(二酸化炭素)の濃度の上昇を抑えることで、地球温暖化の進行を抑える」という考え方があります。カーボンニュートラルとは「何かを生産する、一連の人為的活動を行う際に排出されるCO2と、吸収されるCO2が同じ量である」という概念です。
2018年末からヨーロッパ各地で活発化している「Friday for future運動」をご存じでしょうか?2030年にカーボンニュートラルな社会実現を要求する、若者たちによる定期的な金曜日に行われる気候デモです。
直訳すると「未来のための金曜日」といったところでしょうか。
2019年の秋頃、スイスの「Friday for future運動」では、国会前に10万人ほどの参加者が集まったそうです。スイスでの10万人というと、人口のおよそ1%を上回る数です。お隣のドイツでも各地で140万人(人口の1%以上)が参加するデモが行われました。
この運動はスイスの政治へも影響を及ぼすようになっており、ルツェルン州やチューリッヒ州で緑の党が議席を増やしました。
そして、スイス国内の5つの州では「気候緊急事態」が宣言されました。スイス内閣では気候目標の見直しが行われ、CO2法改定がさらに見直されること(例:航空券へのCO2税導入、自動車燃料へのCO2料金値上げ等)につながったのです。
建築にまつわるエネルギーの消費や環境への影響を考慮することは、日本で家を建てる時にオーナー自身が当たり前に考慮する項目ではありません。
しかし、スイスで家を新築する際には、省エネの規制基準があります。地域によっては新築市場の25%(チューリッヒ州においては40%)以上が任意のトップランナー認証である『ミネルギー基準』に認証され助成金を得ています。
下の写真は、スイスに行った際に実際に見学した家に掲げられていた『ミネルギー・P・エコ』の認証です。
ミネルギー基準の中でも省エネ性能だけでなく、建物の健康性と環境性を配慮する建物であるというのがミネルギー・P・エコ認証です。
日本ではドイツの「パッシブハウス基準」が参考にされることが多いですが、そのスイス版ともいうべきものでしょうか。ちなみに「エコ」という部分は、溶剤がほとんど使われていないエコ建材をインテリアに使用していることです。
スイスやドイツでは「住宅」は重工業などに比べて、エネルギー転換がすぐ手を付けられる分野として位置付けられています。
家の中に高い生活の質と小さな環境負荷を両立して、自分たちの健康だけでなく環境にも配慮する家づくりが、国や自治体にバックアップされている。建築業者もそういった家づくりを理解して進めなければいけないという、それだけエネルギー問題が身近に差し迫っていることを感じさせてくれます。
きれいな街並みや風景は伝統や歴史を重んじるだけでなく、周辺環境に配慮しデザイン(設計)されているからこそなのかもしれません。
まだ地球温暖化の影響がなかった古い建築基準のままで、思い思いの家を建てられる日本の自由度も捨てがたいです。しかし家だけでなく地域で未来の環境を守り、なるべく化石燃料の消費を抑えて健康に暮らしていく。家を建てる時にちょっと考慮したい、事柄です。