学生時代の建築やインテリアに興味がなかった頃に行っても、壁紙の種類を気にも止めていませんでした。ドイツでは一般住宅はもちろん、ホテルやレストランなどでも、かなりの確率でウッドチップの壁紙や紙壁紙を目にします。
また、含有される成分の問題でドイツの病院にはビニールクロスを使用してはいけない、という話も聞いたことがあります。実際に壁紙市場の80%程度は、紙(再生紙含む)壁紙だそうです。ホームセンターではどこでも紙壁紙が置かれていて、DIYで貼ることがほとんどです。さらに紙壁紙は「塗装用下地」の壁紙が大半で、部屋の模様替えやメンテナンス時にオーナー自らが上から塗装をして仕上げます。
壁紙の市場シェア
一般的な建物において最大面積を占めるのは、壁と天井です。
壁と天井に別々の素材を使うことも少なく、日本の住宅では圧倒的にビニールクロスを採用します。ビニールクロスには多彩な色や柄がありますが、模様の目立たない白系のものが定番になります。私もビニールクロスの中で遊び、学び、眠り、多くの時間を過ごしてきました。だから他の選択肢を知るきっかけがなければ、何も疑問を感じることがなかったかもしれません。
現在はエコクロスなるものがいっぱい出てきているので、選択肢の幅も広がりました。日本でもだいぶビニールクロス以外の壁紙の割合が増えたのでは?ということで、数年前に調べてみたこともありました。
なんと!
- 2018年のビニールクロスの出荷量は壁紙全体の98%
に対して
- 3番目に需要の多い(2番目はプラスチック系壁紙)「紙壁紙」の出荷量は0.5%
*(一社)日本壁装協会 調べ
もちろん出荷量なので、住宅以外の建物にも使われている統計になるかと思いますが。思った以上に、ビニールクロス一辺倒なのでした。
ビニールクロスの特徴
それでは、ビニールクロスのメリット・デメリットを見てみましょう。
ビニールクロスを掃除のために拭く人は多いのでしょうか。紙壁紙の話をすると「拭けますか?」という質問を定期的に受けます。紙壁紙に自然塗料などの仕上げ材料を塗ったものは、ある程度汚れをはじき、固く絞った布で拭くことができるので、日常生活で困ることは滅多とありません。しかし、表面に何も塗装されておらず、純粋な紙に近いほど汚れが染みやすいのは事実です。
色んな資材が高騰する中、内装仕上げ材としては非常に安価なため、ビニールクロスを標準仕様にしている建築業者が圧倒的です。違う種類の壁紙をや仕上げ材を選ぶことで、数倍のコストアップになることもあるので、選択肢としてなかなか外せないのです。
ビニールクロスは、先進国では日本だけで多く使われているアルミサッシと同様に、日本の高度経済成長期の住宅建設ラッシュで必要とされた、近代的な家づくりの副産物です。オーナー側のコスト意識と建てる側の利便さがあって大きく市場を広げた新建材です。
室内の健康性を考える
体重50kgの人が1日に吸う空気の量は、約20kg。
室内で過ごすことが多い人にとっては、なるべくきれいな空気で囲まれていたいものです。
ドイツやスイスではバウ(=建築)エコロジーとはまた別に、バウビオロギーという健康や環境を配慮した建築を考える学問があります。とても奥深い学問なので簡単に説明はできないのですが、「住まいは第三の皮膚である」と捉えています。
バウビオロギーでは家の中で自分を外的影響から守っているものが、「自分の皮膚→自分が来ている衣服→家の建材・仕上げ材」という順番とされます。このバウビオロギーという学問を知ったり、色々なエコロジー住宅を見るようになって、ビニールクロスを避けたいと思うようになりました。
壁の仕上げ材の選択は、大きく2つに分かれます。自然由来の呼吸性や調湿性などのような「皮膚機能」がある紙や土、木などに囲まれるのか、ビニールクロスやペンキに代表されるような呼吸性のほとんどない合成樹脂に頼るのか。
仕事で前述のようなビニールクロスの特徴を知り、以前住んでいたマンションではビニールクロスは使用せず、壁紙自体は少しの単価アップで済んだオガファーザー壁紙を貼りました。
オガファーザー壁紙はもともと塗装用下地の壁紙で、自然塗料を塗装して仕上げないといけませんし、壁紙を貼る以外にも塗装代がコストアップになります。しかしマンションに住み始めた時はそんなに予算もなく、自己責任でウッドチップの壁紙を貼るだけで塗装はしませんでした。
今の家では同じオガファーザーでも模様のないフリース壁紙に、きっちり自然塗料を塗って仕上げ、色彩も楽しんでいます。やはり塗装した方が、表面に汚れも付きにくくサッと拭くことができて良いです。
壁紙の寿命
一般的にビニールクロスの寿命は、10〜15年くらいで貼り替えだといわれています。
ビニールクロスは自然素材に比べて静電気が発生しやすく、表面にホコリや空気の汚れが寄りやすいです。ほとんどのビニールクロスはダイオキシンを発生させる可能性があり、産業廃棄物として処理しなければなりません。
紙壁紙も同じく15年くらいで塗装するのが、メンテナンスの目安といわれます。
ただ、紙壁紙を仕事で扱っていた時によっぽど汚れたり、入居者が入れ替わるということでない限り、15年でメンテナンスを言ってくる人はほとんどいませんでした。
私自身も15年間はメンテナンスをしなかったのですが、家に来た人にあまり古さを感じないと言われました。なぜなのかは憶測ですが、ビニールと紙の劣化の仕方の違いが大きいのだと思います。
長く続いているレストランや感じの良い建物が、ビニールクロス以外のもので仕上げられていることは多いです。お店のオーナーが提供するサービスに加えて、その空間の材料がゲストの居心地の良さに影響されることを知っているからです。
短時間でエネルギーをかけて化学合成したものと、自然界の中でゆっくりと育ってきたものとの差が、経年することで見た目にも出てくるのでしょうか。床や壁は面積が大きく簡単に変えられないところなので、何を使うのか少し立ち止まって考えたいところです。