内装の仕上げには自然素材の方がなんとなくいいとは思うのですが、コストもかかるし選択肢もいっぱいあるので選ぶのが難しい…
たしかに予算は限りのあるものですし、価値観や好みも大事な要素です。人と家そのものの健康を考えてじっくり選んでほしいな、と思います。
建築のプロでも新建材と昔からある自然素材やエコロジー建材の違いが、家にどういう違いをもたらすのか、全体を理解して設計している人は多くありません。
そして、建てる側もデザインやコストは優先順位が高いですが、住んでから体感する居心地の違いを比較できる機会はあまりありません。
「エコ」や「健康」という言葉が住宅に使われることは珍しくなくなりましたが、そのおかげでなんとなく「エコ」で「健康」風な触れ込みの商品も増えています。
健康は基本的に守られるべきものだと思って何も知らないまま家づくりを進めるのは、ネットで色々と検索できる現代にとてももったいないことです。
家づくりの勉強の入口は、
- 気密・断熱の基本性能=「夏涼しく冬暖かい家」
- 室内環境と耐久性=「人も家も健康で長持ちする」
- 耐震
の3点を押さえるのがおすすめです。
家づくりのパートナーも、以上の3点は丁寧に説明できるプロから選びたいものです。この記事では2つ目の「健康と長持ち」をテーマに、内装仕上げに使う新建材と昔からある自然素材のそれぞれの特徴について解説します。
新建材と自然素材の歴史
「新建材」とは1960年代の高度経済成長期から登場した、化学合成した原材料で製造された建築材料のことをいいます。
- ビニールクロス
- 合板・集成材(接着剤で貼り合わされた木材)
- 石膏ボード
- 窯業系サイディング
- アルミサッシ
などが新建材にあたります。
新建材の登場で、それまで1000年以上は家づくりの主役であった木・土・漆喰など、身近で豊富な天然資源の使用機会は大幅に減りました。経済成長によってたくさんの人が家を建てられる様になり、大量生産ができ熟練技術が不要な新建材を使い、工期と住宅コストを低減させることができたからです。
以後、建材から発生する有害物質を発端とした「シックハウス症候群」が1990年代に表面化し、2003年に建築基準法が改正されるまで40年近く、建材に含まれる成分についての安全性に関してはメーカー任せ。塗料や接着剤から発されるような「新築のニオイ」は、新築を建てたら当たり前のものと捉えられ、家のカビ・ダニの発生がアレルギーと因果関係があることも明らかではありませんでした。
シックハウスという言葉の認知度が上がると共に、無垢材を使った家づくりが見直されたり珪藻(ケイソウ)土が開発されたり、環境先進国であるドイツなどから自然塗料やエコロジー建材の輸入も活発化されました。
新建材ならではのデザインや機能性は魅力ですが、特に室内に使われるものは人に直接影響を与えることもあり、成分の安全性や快適性については確認しておきたいところです。
そして、新建材の登場の裏側には、国産材の使い手である大工や左官技術など、素材を生かし長持ちさせる職人技術の継承が難しくなったこと。生産や輸送にエネルギー負荷の少ない、豊富な森林資源などの行き場が失われた事実もあります。
「風化」と「劣化」は違う
新建材は健康・廃棄面で含有成分のデメリットを感じられますが、表面の汚れや耐水性の強さ、安価で施工も簡単なのが新建材のメリットです。
ただ、新建材と自然素材の見た目の違いは大きく、新築当時には気にならなくとも経年変化により差が広がり始めます。
その違いは、自然素材が「風化」していくのに対して、新建材は「劣化」していくことにあります。
木は何も塗装しなければ朽ちて黒ずんでいき、純粋な漆喰は100年の歳月をかけてCO2を吸収しながら元の石灰石の姿に戻っていく「風化」と共に風合いを増します。
窯業系サイディングは新築当時がいちばんきれいなピークで、紫外線による「劣化」スピードは早く、専門業者による10年未満での定期的な補修が必要です。
15年も経過すれば、新建材も自然素材のいずれも手入れは必要となります。
具体的な手入れ方法として、自然素材は同じ素材を上塗りするか傷んだところのみの取り替えが可能なものが多いのに対し、新建材は上からさらに合成樹脂などの素材を加えていくか全部取り替えるか、という選択になります。
日本でも古民家をDIYで改修して移り住む人たちが年々増えてきていますが、古民家を耐震や断熱を補強すれば、風情があり落ち着きを感じられる住み心地が魅力の1つです。
伝統工法で建てられた木の家だから時代が過ぎて古くなっても味わいがあり、また手入れをして住み継ぎたい人が現れます。
現代の家づくりにはどちらが合う?
現代の家づくりでは気候変動やエネルギー問題を背景に単なる「エコ」ではなく、「省エネ」や「健康」について具体的な取り組みが始まっています。
見た目のエコや省エネという表現は溢れているので、建てる側も自らが勉強してより良い建築持論を持つプロと出会いたいものです。
人気のあるハウスメーカーや地元密着で建てる工務店以外にも「省エネ」と「健康」を重視した建築業者は、高気密な家や全館空調を勧めます。
もしその良質なスペックの家づくりまで行き着いているのなら、あと一歩考えてもらいたいのが内装材の選び方についてです。
気密や断熱が高く室内温度が安定している家は、それらを考えられていない家よりも光熱費も低く耐久性が出るはずです。
しかし、気密が良いことは同時に冬に室内が過乾燥になったり、壁面や開口部の基準はバッチリなのにウレタン塗装の複合フローリングであることで、足元の冷たさが解消されないなどの問題が出てきます。
良質な設備や空調を補うのが、呼吸する建材=自然素材です。
無垢フローリングや漆喰などの自然素材は、化学物質に対する「シックハウス」だけではなく、過乾燥や高い湿度によるカビの発生など体感しやすい湿度の「シックハウス」を防ぐ役目もあります。
新建材と自然素材をうまく組み合わせて、身体への見えない負担をなるべく減らす選択肢も持っておきたいものです。
家を永くもたせるには?
日本の現在の住宅寿命は先進国の中でいちばん短く、30数年です。
戦争で建物が破壊されたこともあり、ヨーロッパでは住宅寿命が短いといわれるドイツでも約70年、ドイツの周辺国では手入れをしながらさらに家を永くもたせています。
住宅寿命の違いは「歴史ある古いものを大切にする」気持ちばかりではありません。
住宅はどこの国の住民にとっても決して安いものではなく、人気のある高額な物件は築年数の新旧に左右されることはありません。
長く住めるデザインや素材で建てられた家は大きく価値が下がらず、そういった物件には木や石、土などの素材の他、合成樹脂系の貼りものではなく塗装や左官が使われています。
人生100年時代を迎えて住宅ローンも終わらないうちに、家が30数年で建て替えたり大規模なリフォームをする必要が出ては困ります。
また日々の光熱費に関して、昨今の光熱費の値上げは今後も上昇トレンドにあるといえるでしょう。
高齢になると1日のほとんどを家で過ごすことになりがちかと思いますが、日々の光熱費に加えて将来的な医療費や家の修繕費を考えてみても、自分たちと家の健康状態について考えておくことに損はありません。
何百年も手入れされながら残る伝統建築が、日本には各地に多くあります。
自分の家もせめて50年よりは永くもたせるために、木や漆喰などの昔ながらの材料を内装に選ぶことで、手入れしながら少しでも息の長い家にしていくことができることを忘れないで下さいね。
人と家の健康を大事にしつつ新建材とコストとバランスをとりながら、内装に自然素材を上手に取り入れることをおすすめします。